circular touch (symmetrical)

2012
ラムダプリント、トレーシングペーパー、色鉛筆
W.284 × H.205mm

撮影 加藤貴文


自らに触れる。それは、循環的・回帰的な構造をもっており、"触りつつ、触られる"という、不思議な感覚をもつ相互関係だ。これは「ダブル・タッチ」と呼ばれ、例えば新生児の脳は、これによって自らの身体の範囲を学んでいると考えられている。
その構造をトポロジカルな形態におきかえると、結び目のある輪っかのような形になる。”circular”とはそのような意味だ。そして、その結び目がこの重ね合わさる両の手である。
手は、身体のなかでもっとも触覚的に鋭敏な器官であり、能動的にはたらいて、いろいろなところに触れながら、皮膚の判別性感覚を走査させている。つるつる、ザラザラ、ぎとぎと、多様な感触を利き分けることができる。
いっぽう、本作のようにシンメトリーに手と手を合わせるときは、能動と受動の区分がなくなる。両手が接触した瞬間から静止するとともに、少しずつ皮膚表面の触感覚は収まり(感覚の順応)、相互に触れながら温覚や圧覚をゆっくりと立ち上げ、じんわりと持続させてゆく。

この触覚モードの変化のシークエンスが、不変(invariant)な自己を出現させるのではないか。自己存在の恒常的な感じ取りを下支えしている。幾度となく再帰的に、かつ、持続的に現われる「私」(self)であると考える。

circular touch (symmetrical)

2012
Lambda print, tracing paper, color pencil
W.284 × H.205mm

photo by Takafumi Kato